ひながたり。

writing practice as practice flight

宮野公樹「研究発表のためのスライドデザイン」

第2章にある一文が、本書の効用を端的に示しているといえるでしょう。

これまでは、どうすれば「わかりやすい」スライドを作成できるのかといった基準が何もわからない状態だったかもしれませんが、これからは、少なくともここで紹介してきたスライドデザインの原則や手法を評価軸として使い、「わかりやすい」スライドを作成できているかどうかを自分でチェックすることもできるはずです。

大学の研究室に居たころは、学生の論文なりスライドなりを添削するのが、とにかく苦手だった。明らかな記述ミスや、ルールからの逸脱はまあ良いとして、困ったのはちょっとしっくりとこない文章表現だったり、あるいはてにをはの使い方だったりした。こういったのを添削しだすと、どこまでが正しい方向性を持った修正で、どこからが僕個人の単なる好みなのか、その境界の曖昧さに悩むことしきりだった。スライドのデザインなんかもそうで、“個人の自主性の尊重”を隠れ蓑にしつつ、明確な基準の無い、なんとなく自分が良さそうだと思うやり方を伝えるのにとどまっていた。

 

そこで本書の登場ですよ。

 

 

TEDのようなプレゼン&スライドを目指すべき?

印象的なプレゼンといえば、まず思い浮かぶのはTEDではないでしょうか。例えばこちら。

 


ジェーン・マゴニガル 「ゲームで10年長生きしましょう」 | Talk Video | TED.com

 

いかがでしょうか。TEDに見られるのが、「極限までスライド上の情報量を減らし、口頭説明で聴衆を惹きつける」*1スタイル。身振りや手振り、時にはジョークも交えながら、堂々と話すさまは見ていてとても強い印象を受けます*2。我々研究者もこれだけできたならば、もう研究発表の場でも恐れることはない、ということは、すぐにわかります。

 

しかしながら、本書はそうしたTED風のプレゼン、およびスライドを作ることを目指すものではありません。本書が目指すのは、

「口頭説明なしでもメッセージが伝わるスライド」です。スライドを見た聴衆が、瞬時に発表者が伝えたいメッセージを理解でき、口頭説明の内容を予測できるくらいのスライドが理想です。

なぜTEDと違う方向性を目指すのか、については、2つの理由が本書に示されているので割愛。研究者の中には、しゃべりがやたらと上手い人も時折見かけますが、それはほんの一握りでしょう。(僕のように)たとえ口頭説明が得意でなくとも、話し上手なライバルたちと、同じ土俵で勝負するための処方箋。それが本書です。

 

 

わかりやすさの「哲学」と「技術」

本書を際立たせているのが第1部の存在で、ここでは「わかりやすい」スライドの土台となる哲学の部分に焦点が当てられます。スライドを作り始める前に考えるべきこと、それが「わかりやすさ」の概念であり、プレゼンで伝えたい内容の論理構成であり、そしてプレゼンを聴く聴衆の存在です。こうした哲学の部分が、本書を単なるスライドTips集にとどまらない、魅力あるものとしています。部末にはスライドの全体構成を3つの観点

  • オリジナリティはあるか?
  • 客観的・論理的か?
  • 正確か?

からチェックできるチェックリストが掲載されていて、非常に便利。

 

続く第2部がテクニックの話で、スライドをわかりやすくするための技術が紹介されています。本書のカバーする要素は

  • 文字(フォント)
  • 配色
  • グラフ
  • 写真やイラスト
  • 図形や線

です。というかスライドの構成要素ほぼ全てをカバーしているので、これだけでわかりやすいスライド作成には十分役立つでしょう。こちらも部末にはチェックリストがついていて有用です。


第3章は短いですが、全体構成を示すことの有効性とテクニック。スライドで今話している部分が、話の全体でいうとどの部分にあたるのか。それを聴衆が把握できるようにする工夫することが「わかりやすさ」につながるというお話でした。

 

 

附 録

たとえば「附録」のように漢字二文字の単語であれば、見出しでやったように、漢字のあいだに半角スペースを入れると読みやすくなるようです(本書より)。いかが?


本書の「おわりに」によれば、プレゼンは認知特性で言うところの「言語特性」と「視覚特性」を同時に鍛えられる最高のツール、というのが著者の主張。認知特性については以前にも少し記事*3にしたことがあったけど、僕はどうも聴覚優位のきらいがあるらしい。すると僕自身があんまりプレゼン好きじゃないってのは、優位性の差に起因する部分もあるのかな? ともあれ自分の感覚の優位性から、プレゼンの得手不得手の具合が少しはわかるかもしれない。

 

 

研究発表のためのスライドデザイン (ブルーバックス)

研究発表のためのスライドデザイン (ブルーバックス)

 

 

*1:本書より引用

*2:補足ながらこのプレゼンは構成も素晴らしい。ネタバレは避けますが、はじめに不思議な数字を出して「何だろう?」と聴衆を惹きつけつつ、徐々に盛り上げていって、最後に華麗なタネ明かしで捲るさまは見事の一言に尽きます。

*3:視覚と聴覚 - ひながたり。

お越しくださりありがとうございます。このブログについて