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ひながたり。

writing practice as practice flight

今野浩 「ヒラノ教授の論文必勝法」 再読した

読書

はじめに

以前の記事*1、「何を」と「どうやって」の境界をポール・グレアムの「ハッカーと画家」から引用したけど、そういえば同じ話題が本書にあったなということを思い出して、もう一度読んだ。

 

「できる研究者の論文生産術」*2は、タイトル通り論文に関する内容がメインだけど、論文を書くことは研究の一つの側面でしかない。現実にはさまざまなハードルがあって、論文を書けるだけの研究成果がなかなか出なかったりもするし、あるいは研究以外の部分に時間を取られることだって往々にしてある。その意味では本書は前出の「できる研究者の~」とは趣が異なってて、その内容は論文執筆だけにとどまらなくて、研究者として研究費どうするかとか、あと大学教員として事務諸々をどうするかとかの研究生活全般をカバーしてる。そして内容の多くは著者の経験に基づいてて、とりわけ成果が出なかった頃にどうしてたかの話は現実の重みあって良い。

 

研究者にもランクがあって、本当にすごい研究者はすごすぎて参考にならないから、もっと現実的な手本を見つけましょうというのが著者の主張で、以下序章より引用。

B級ヒラノ教授が手本にしたのは、AA級の研究者、それもAAA級の才能の持ち主ではなく、努力と幸運のおかげでAA級にランクインした人たちである。将来A級をめざす若手(B・C級)研究者が参考にすべきは、A級の研究者、中でも苦労の末にA級にのし上がった人ではなかろうか。(太字原文ママ

ふだん研究していると目につくのはAAA級研究者ばかりで、彼我の差は(本書にもある通り)10倍、100倍くらいあるんじゃないかと思わされていつも絶望感漂うけど、こういう記述には勇気づけられる。もっとも、ヒラノ教授も実際には相当数の論文生産しててすごいので、依然として彼我の差を感じる部分はある。

 

 

「何を」と「どうやって」の境界

冒頭で出した「何を」と「どうやって」の境界、いろんな人が論じてきたと思うし、それは本書でも述べられてる。第3章からの引用が以下。

まず工学部の研究者(エンジニア)の特徴は、短期的視点で仕事をすること(太字原文ママ)である。彼らは、自分が現役である間には解決されそうもない研究テーマには手を出さない。具体的に言えば、長くても五年先のことしか考えない。

ある東大工学部教授は、 “一流エンジニアは、与えられた問題を如何にうまく解くか、つまりHOWだけを考えればいい。君のようにWHATを考えるエンジニアは二流だ” と言い放って、ヒラノ助教授に衝撃を与えた。

技術は時々刻々変化し、五年もするとより新しいものに置き換えられる。そうなる前に、短期的視点で “今そこにある問題” に関する何らかの “役に立つ” 成果を導くことが、一流エンジニアの任務だということである(今もそう考えているかどうか、よくわからない)。

面白かったのは、短期的視点という言葉が必ずしもネガティブなニュアンスでは用いられていないところ、そして "ある東大工学部教授" も、意図してHOWだけを考えるエンジニアの矜持みたいなものを持っていると感じられるところ。WHATとHOW、どちらが上ということではなくて、HOWを追求することはWHATを追求することにくらべて、決して貶められるものではない、という考え方は心強い。そういうスタンス・戦い方もあるということだ。

 

ただし、WHATを考えなかった結果が、問題に対する思考停止になっていないかどうかはつねに自戒する必要があると思う。いつまでも同じ問題を考え続けていたら、それがいつの間にか問題じゃなくなってて、周りから取り残されていた――なんてことにもなりかねない。上の東大工学部教授はいいけど、我が身を振り返るときびしさある。問題に対するアンテナの感度を保ちつづけるには? という問題のHOWを考えるメタ的な話になってきた。

 

 

研究生活における運の話

あと興味深かったのが運の話で、1章の章末にあるポイントの必勝法4を引用。ちなみに必勝法は全部で36あります。

研究生活は才能が30%、努力が30%、そして、運が40%。

いい研究成果を出すノウハウとは、必然的幸運をつかまえるノウハウ、偶然的不運を避けるノウハウでもある。

つまりどんなに努力しても運の占めるファクターが大きいし、逆に才能と努力がしょぼくても、運さえあればそこそこまでいけてしまうということだ。

 

運が一番重要というのはどこかで聞いた話だなと思ったら、東方香霖堂*3でこういうくだり出てきたこと思い出した。第十八話「月と河童」、縁起物を探して香霖堂を訪れた咲夜に語る霖之助のモノローグ。

魔法の実行は六つの要素から成り立っている。それは、術者の『技量』、魂の性質である『気質』、道具や材料といった『物質』、行う場所である『空間』、実行した時の『時間』、そして最後に『運』である。このうち、最後の運が占めるウエイトは最も重く、運さえ有れば他の要素はある程度カバーできるし、逆にこれが無ければどんな簡単な魔法でも失敗するのだ。

そしてクラーク御大*4も、そのクラークの三法則*5の3つめで「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」と言っているわけだし、結局科学技術も魔法も根っこは同じ、運が支配するものなんじゃないかという思いはある。

 

余談はともかく話を戻すと、運が一番重要というのは結構身も蓋もない話で、でも体感的にもヒラノ教授のいう割合には納得感がある。運だけで今のポジションにいるか、といわれたらそれはNoだけど(Noであってほしい)、それでも運の要素に恵まれる部分が大きかったのは間違いなかった。

そして本書で出てくる「必然的幸運をつかまえ、偶然的不運を避ける」という表現、すごく好きで、この本を読んでからそういう努力を心がけるようになった。だいぶ前に書いた記事*6、運を貯めると書いたけど、ここに繋がってくると思う。まあそれ以前に、最初から運にステータス極振りしとけば良かったのかもしれない。

 

 

まとめ

全14章構成。各章の章末では、その章のポイントが簡潔にまとめられててわかりやすいので、僕自身では章の内容を語りうる言葉を持たなかった。

あと本書の巻末、文献ガイドがついてて参考になる。超余談だけど、僕がレファレンスを脚注で書いてるのは、参考文献を文末にまとめる論文っぽい書き方をしたいから。

 

 

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