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ひながたり。

writing practice as practice flight

舞姫インザガーデン

舞姫森鴎外の代表的な作品だけど、美少女ゲームのGardenをつらつらと遊んでたら突然出てきて、何事かと思ったのが去年の秋くらいの話。ゲームでのいきさつを今更ながら思い出してみると、作中の小テストを受ける場面、担任の竜胆先生による設問いわく「この作品を読んで感じたことがあれば書きなさい」。試験のための問題としてはあんまりふさわしくないように思われるし、実際にテストを受けてる立場の主人公は戸惑いをおぼえるけど、でもせっかくだからということで率直な感想を書くにいたる。彼はこの作品に辛辣な評価を与えていて、いわく

舞姫なんて、要するに女より仕事を取った男が、俺も苦悩したんだ、なんて聞いてもいない言い訳を述べ立てて自己正当化を試みようとしているだけの女々しい話だ。

だそうである。舞姫は個人的にわりと好きな作品だったので、この正直な物言いにはなかなかにきびしいものを感じてて、それで忘れずに憶えてた。あるいは美少女ゲームで現存する作品にリンクしてくることは、パロディを除けばあんまりないと思ってて(これは単に僕の経験値が乏しいだけかも)、物珍しさから憶えていたというのもあるかもしれない。

 

舞姫という作品、高校の教科書ではじめて読んで、以来何度も読み返すくらいには好きだった。けれど当時の感情なんて最早忘れてて、どういうふうに好きだったのかは今となってはよくわからない。記憶はもとより記録も残ってなくて、当時は作品の感想を文章化して残すなんていう殊勝な心がけもなかったので、確かめるすべもなくて勿体ないことをしている。かろうじて残っている日記を調べて見たら、舞姫に対する言及はなかったけど、作者である森鴎外についてはひとつだけ、彼の別の作品「妄想」を読もうとしたと書いてあって、これが2009年だった。実を言うとこれらの事実、妄想という作品があることとそれを読もうとしていたことさえもすっかり忘れていたので、やっぱり記録しておくことは大事だった。

 

舞姫の作者の森鴎外、明治大正時代の最強クラスの人物で、詳細はウィキペディアの記事*1に譲るけど、研究もできるし軍医総監でもあるし小説も書けて翻訳もできるというマルチな才能を発揮していて憧れあった。最近になって森鴎外記念館というのがあることを知って、彼のすごさに触れたいと思って何度か訪れた。記念館の展示でも舞姫が引き合いに出されてて、文章こんなに格好良かったっけと思わず目を見張る。

余は模糊たる功名の念と、検束に慣れたる勉強力とを持ちて、忽ちこの欧羅巴の新大都の中央に立てり。何等の光彩ぞ、我目を射むとするは。何等の色沢ぞ、我心を迷はさむとするは。

上で挙げた「妄想」という作品、2009年の日記では読もうとした事実しか記されていなかった。今調べてみると、作者の森鴎外がこれまでの人生を振り返って書いた作品だそうで、記念館に行ったのと同じで、やっぱりその人間性や才能に触れたかったんだろうなと想像する。自分のことなのに感情も記録も残っていないから、もはや想像するしかない。ぜんぜん自分が頼りにならないことを自覚する。

 

舞姫森鴎外記念館での引用を見て感化されて、最近になってまた読み直してる。青空文庫で無料で読めるから助かる。改めて読み返してみると記憶以上に文語表現が強くて読みづらさあって、どうしてこんなに難しい作品が好きだったんだろうなと疑問に思う。高校生の頃の遅れてきた中二病的感性で、その硬めな文語体が好きだったのかもしれない。あるいは豊太郎が持っていたとおぼしき世界への漠然としたおそれ――それはたとえば御厨杜理子*2だったり、ヘンリ・ライクロフト*3が持っていたであろうもの――に共感できたからかもしれない。そうしたたぐいのものをたとえ持っていたとしても、ここまで頑張れるんだという安心感、もしくはロールモデルそのもの。時代錯誤な憧れを抱いて訪れたベルリンでは、鴎外も見たであろうブランデンブルク門を前にしてしばし佇んでた(たぶんね;-)。

 

舞姫、Gardenの主人公のいうところの「女か仕事かで悩む女々しい話」かもしれないけど、でもこの主人公というのも昔の女の子のことでずっと悩み続けてる若者なわけで、ともすれば似た者同士なんじゃないのかと勘繰ってしまう。共感を持って作品に近づくか、反感によって関わりを持つか、その違いはあるけれど、現実とゲームとで同じ作品を共有できるのはちょっとだけ新鮮な体験だった。Gardenには冒頭の設問を作った竜胆先生のルートも存在していて、でも僕はこのゲームは積みっぱなしで、先生のルートはまだ攻略が終わってない。この舞姫は伏線となって回収されるのか、それともここ限りの登場になるのか、ちょっとだけ楽しみにしながらも、崩すのはまだ先になりそう。

 

 

余 談
  • Gardenの音楽は至高。
  • 高校時代の古文の授業ってなんのためにやるのかわからなくて、いまでは全くと言って良いほど役に立っていないけど、舞姫のこの文語体の文章がすらすら読めたというだけでも古文の勉強した甲斐があって、じゅうぶん元がとれていたことを今になって悟った。時間が経たないと見えてこないものもきっとある。

 

Garden Original Soundtrack

Garden Original Soundtrack

  • Duca, ANZE HIJIRI
  • アニメ
  • ¥2000

 

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