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ひながたり。

writing practice as practice flight

伊藤計劃/Project Itoh、三巷文 「ハーモニー」 読んだ

はじめに

本作の概要、本作を買ったら折り込まれてきた広告に存分に書かれてたから、もはや僕自身が語る言葉はない。つつしんで引用させていただきます。

夭折のSF作家・伊藤計劃の小説を映画化する「Project Itoh」と連動したコミカライズ企画。アニメの設定をもとにしながらも、より原作に近いアプローチで生み出された、もうひとつの「ハーモニー」。

恥ずかしながらつい最近までこの作品のことを知らなくて、原作を買ったのがたしか今年の1月だったと記憶してる。その後映画版を観たのが3月の半ば、この漫画版の存在を知ったのもそのころで、ちょうど単行本1巻が発売されるタイミングで時宜を得た感があった。しかも漫画を描いているのは三巷文先生ということで、これは期待せざるをえなかったし、実際に読んでみて想像以上に良かったので書く。

 

 

より原作に近いアプローチ

上記引用にもあるこのフレーズが語るとおり、漫画という媒体の特性を活かした良さがあると感じてる。原作は独特なETML形式、ようはHTMLと似た形式なんだけど、その本文中には<タグ>がひんぱんに登場する。それはたとえば

<list:item>

   <i:列挙を表す<list>だったり>

   <i:宣言を表す<declaration>だったり>

   <i:定義を参照する<dictionary>だったり>

</list>

するわけだけど、なかでも回想を表す<recollection>というタグ、漫画版ではこのタグが視覚的文字情報を与えつつ、回想シーンの切り替わりとしてとても秀逸に機能している。小説では文字だけでの表現だし、映画では基本的に物語中の絵に文字を置くということはしないから、これは画面の中に文字と絵が共存できる漫画ならではの表現方法でとてもうまいと感じる。

 

内容は基本的に原作の流れをトレースしつつも、原作にも映画にも無かったミァハとトァンのやりとりも描かれてて、作品世界をより深く楽しめます。原作だと冒頭に出てきて強い印象を残すミァハの言葉、

「わたしたちはおとなにならない、って一緒に宣言するの。

<list:item>

   <i:このからだは>

   <i:このおっぱいは>

   <i:このあそこは>

   <i:この子宮は>

</list>

ぜんぶわたし自身のものなんだって、世界に向けて静かにどなりつけてやるのよ」

は、漫画版ではトァンとミァハのなれそめが語られ、トァンが持つ世界への息苦しさが語られ、そのうえでのミァハの集団自殺の決意表明として上の引用箇所が語られていて、コンテクストを持つぶんまた違った重みがあって印象的である。個人的には漫画版のほうが絵の格好良さともあいまって、ミァハのカリスマ性が際立っていて良かった。冒頭で引用した紹介文にある「もうひとつの「ハーモニー」」という言葉どおり、ここにあるのは原作とも映画とも違った美しさを持つハーモニーです。

 

原作との違いでいえば、「ミァハが用意した栄養遮断剤を親にチクった」というくだり、これが映画版のオリジナルだと思ってたら原作にもちゃんとあって、でも記憶からはすっかりこぼれ落ちていたのだった。僕の読むペース的に一日100ページ、本作では2章ぶんくらいがいいところで、しかも2章読んでから一週間経ってまた2章読むという間延びした読み方をしてしまって、そのせいで細かいディテールを忘れてしまっていた。一方で漫画であれば日に数巻はいけるから、物語の全体像を掴むうえでも(漫画版はまだ途中ですが)、さくっと読める漫画という媒体の効果は大きかった。まあこのくだりは、原作では食事の場面からしばらく後になって<recollection>の回想の形で出てくるのに対して、映画版と漫画版では食事の流れでそのまま語られたから、覚えやすかったというのもあるかもしれないけど。

 

 

美しく表情豊かなトァンたち

折り込みの広告にはもうひとつ文章があって、そこに書かれているのがこの表現で引用させていただいた。これはもう漫画版の作者によるところが大きいと思う。僕がこの作者を知ったのは2015年にワニマガジン社から出た「こんなこと」という単行本で、当時からすでに安定した美しさがあったんだけど、それが本作では更に洗練されている感じで良い。ミァハもキァンも、その造形にあるのはかわいさや儚さを想起させる華奢さ・か細さではなく、むしろ力強いプロポーションと躍動であって、漫画での動きのある絵には、人体の動きそれ自体が持つ根源的な美しさがあると感じる。加えて彼女らの感情表現が豊かなのは言うまでもなく。

 

ミァハとトァンのやりとりは、原作よりも映画版そして漫画版でより詳細に描かれている。飄々としていて物理的接触を厭わないミァハと、それに照れを隠せないながらも、徐々に打ち解けてそして憧れを抱くトァン。その中で垣間見える彼女らの表情と感情のやりとりは、百合といって良いのか、僕の中のそのあたりの琴線にたいへん良く触れてやまない。この百合感をもって原作最後の場面がどう描かれるのか、次巻以降が今から楽しみ。

 

ハーモニー (1) (カドカワコミックス・エース)

ハーモニー (1) (カドカワコミックス・エース)

 

 

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