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ひながたり。

writing practice as practice flight

Project Itoh, Alexander O. Smith "Hermony" 読んだ

はじめに

 

"You and I are cut from the same cloth, Tuan Kirie"

(きみはわたしと同じ素材から出来ているんだよ、霧慧トァンさん) 

 

以前に記事*1にしてたハーモニー、小説も漫画版も映画版もどれも良くて、かなり気に入ってたから、ものは試しと思って英訳版を買ってみた。大きな本屋まで出向かないと洋書は無いかなと思ってたけど、amazonで調べたらKindle版・ペーパーバックどちらも一瞬で買えるようになってて、良い時代になったものです。はじめKindle版を買おうとして、でも作中のミァハの精神に則って、重くてかさばる(しかも届くのが遅い)反社会的なペーパーバックを敢えて購入したのだった。出版元はHAIKASORU、はいかそるって何のことかと思ったら、裏表紙を見るにHigh Castleの日本語読みに由来する名前っぽい。

 

カバーに美しい登場人物が描かれた日本語版の文庫本新版とは対照的に、英訳版の表紙は無機質ながらも鮮やかさがあって、表紙はHTMLらしき単語の羅列を背景にした赤い下地に、ミァハ・キアン・トァンの三人同志のマークが描かれる。僕がこのマークを初めて見たのは映画版だったけど、それよりも遡って小説の時点ですでに意匠化されていたのは知らなかったので新鮮だった。

 

 

慣れない洋書

実のところ小説を英語で読んだことはほとんどなくて、これまで受験なり研究なりで相応量の英語には触れてきたつもりだったけど、それでも読んでいると知らない単語が結構出てきて、自分の知識なんて所詮は受験英語・論文英語なんだなと自覚させられる。いわゆる試験に出ない英単語たちだけど、そういう単語を知らないことには小説一冊さえも読むのがおぼつかない、というのが今回体験できて面白かった。snotという単語は鼻水の意味らしくて、でもこんな俗語に出会う機会は残念ながらこれまで無かったのだった。

 

知らない単語が出てきたときに、なんとなくで読み進めれば良いのか、それとも一字一句理解していったほうが良いのか、そのあたりの勘所もまだ自分の中で掴めていない。もともと日本語で内容をひととおり理解している小説だからこそ読めているのであって、これを未読の本でやれとなったら中々にハードル高くて、根気が保たないような気がしてる。それもあって、印象に残ってる場面を散発的に・パラパラとめくって読む程度にとどまってる。冒頭で挙げた一節もその過程で見つけたもののひとつ。

 

 

ETML形式との親和性

原作小説がETMLと呼ばれる独特の形式で書かれているのは以前の記事で書いた通り。日本語だと縦書きの文字に対してタグのアルファベットは横向きになってて、すると元の文章とタグとの切り替わりが明確に判別できる。一方の英訳版では横書きのアルファベットの文章に横書きのアルファベットのタグがそのまま入るので、一応フォントは変えてある*2けど、ETML形式との親和性は生来高い。ただ親和性の高さのあまり、却ってタグが目立たない・強調されにくいのもまた事実で、日本語と英語どちらが好ましいかは読み手次第かもしれないけど、僕は明確な切り替わりのある日本語が好きだった。ちなみに縦書きの日本語のなかに横向きの英単語タグが出てきても違和感無く読めてしまうというのは、人間の脳は不思議なものだとつくづく思う。

 

 

訳の巧さ

上で書いた通り、僕は小説を英語で読み慣れていないこともあって、本作の訳文の巧拙を語ることはできない。それでも冒頭で挙げた一節からは翻訳の良さを感じられた。日本語でいうところの素材であればマテリアルとでも訳しそうなところを、ここではcloth、布という言葉をあてている。さらにいうなら、「素材から出来ている」というのが "cut from the cloth"、直訳すれば同じ布から切り取られている、と表現されている。布というのはなんの象徴だろう? と思って調べてたら、どうやら "cut from the cloth" でうり二つとかそういう意味の慣用句らしかった*3。ともかくも翻訳という仕事は単に英語の力だけじゃなくて、文脈を読む力もまた求められているのだなと感じる。僕が戯れにやった過去記事の英訳*4*5、あれらは単に事実を伝えるだけだから良いけど、小説だったらこうはいかないだろうな。

 

 

Harmony (English Edition)

Harmony (English Edition)

 

 

 

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