ひながたり。

writing practice as practice flight

Purple software 「アマツツミ」 遊んだ

ネタバレ注意です。

 

 

所感

遊び終わってから体験版のときに書いた感想を振り返ってみると、まずは本作が持つ夏感に対する認識について、少しばかりのずれがあったことをおわびしないといけないかもしれない。第一弾の感想*1で「白さの際立つ・生命力を欠いた」と表現しているのは、うだるような暑さで色彩に乏しい夏のことであって、気怠さや喪失感、そういったキーワードを喚び起こすようなそれを想像していた。けれど実際はそうではなくて、確かにメインビジュアルそしてほたるの造形――分身は一週間しか生きられず、オリジナルもまた死にゆくさだめにある――からは生命感の乏しさが感じられるんだけど、その裏返しにある生への強い意志や希望、生きていることの実感、本作はそうしたものを語る作品なんだと思い改めた。パッケージにもあるメインビジュアルの白さはむべなるかな、それは夏の光の強さとともに、ほたるの聖性と、そしてはじまりである主人公の無色さをも象徴するだろうか。「あなたは、今、何色ですか?」無色から始まる物語は、夏の空の鮮やかな青さに終わる。

 

もうひとつは本作が持つ静けさ、第一弾の感想で同じく言及させていただいたものだけど、こちらは考えていた通りにとても良かった。繰り返しになるけど本作を夏に遊べたのは僥倖だったとしみじみ思う。夏の夜の穏やかさ、日中のきびしい暑さが緩んだあとの空気は体に心地よくて、そこではヒロインたちと一緒に過ごす安らかな時間がただ流れていく。夜にふとゲームを中断して外に出てみれば、日中の暑さの残る空気がゲームと地続きになっている錯覚、そしてそこでぼんやりと感じられるゲームとの共感が体験として面白かった。静けさは物語の進行それ自体にもあって、これは舞台設定によるところも大きいけど、あからさまな乱痴気騒ぎやヒロインたちに恣意的に取り囲まれたりということはなかった(ように思う)。その代わりに喫茶店で和むとか、湖でくつろいで語らう、夜の花火をふたりで眺めたり、あるいは花畑で蛍を見つけるなど、静かで安らぎのあるイベントに彩られていた。湖があるとはいえ泳ぐには危険とのことで、それにみんなで海に行きましょうともならないから、本作に水着回は存在しないことには注意されたい。

 

 

ヒロインたちの印象(本筋ルート)

水無月ほたる

せっかくなのではじめからグランドエンド(この表現で正しいかちょっとあやしい)を目指して本筋ルートを1周目に終了。本筋ルートで名前の通りに筋が一本通っていて、しかもほたる本筋に至るまでに他ヒロインとも結構仲良くした経緯があるから、その意味では1周遊んだだけでだいぶ満足感があった。ひたすらに世界を呪い・利己的に振る舞うオリジナルのほたると、世界を愛し、その可能性を信じて行動する分身のほたる。やや両極端に振れているきらいはあるけれど、ひとりの人間であってもそうした二面性が存在するのは自然なことだと思うし、ほたるをただの聖女としてだけではなく、負の部分も含めて両面から描いてくれたのは良かった。とくにオリジナルのほたるが見せる生への意志、もっと言えば生への執着は、多少振れ過ぎているとはいえ共感できる部分もあって、切ない気持ちに駆られる。

 

印象に残った場面、というか話の流れだけど、オリジナルのほたると会ったあとに分身のほたると過ごす最後の一週間がすごく好きだった。主人公とほたるがその馴れ初めからこれまでを追うなかで、ここはゲームを遊ぶ僕らにとってみても、ああこんな思い出があったんだな…って感情的に追体験できる仕組みになっている。一週間の終わりに礼拝堂に現れるドレス姿のほたる、そのあとに百合の花畑で声を限りに叫ぶほたる、そしてもうひとつの選択肢を選んだ終わり、ふたたび百合の花畑で向かい合うふたりのほたる。いま挙げた場面はどれも一枚絵で彩られていて強く印象付けられた。こうした場面での絵以外の要素、BGMやセリフももちろん素晴らしいのだけれど、とにかく絵の美しさは本作の魅力のひとつであることは強調しておきたい。

 

 

恋塚愛

本筋ルートの仕様上、物語の終わりに近いところにいるヒロインほど良く記憶に残っていて、体験版のときと比べて良い意味で一番印象が変わったのが彼女だった。何かにつけて主人公のことを苛めてきてサディスティックなんだけど、実は主人公のことが誰よりも好きで、とても大事にしているというその優しさ。第三話の終わり、愛はちょっと雰囲気変わったよね? という主人公の問いかけ、そして第四話の冒頭、愛の誠への愛情が依存から信頼へと変わっていると見定めたほたるのモノローグ、これらに示唆される彼女の変化は確かに感じとることができた。もちろん意図してそういう設計になっているんだろうから、そう感じられてしかるべきなんだろうけど、それでも纏っている険が取れた様子はすごく自然な感じだったのが良かった。体験版第2弾の感想*2でも書いたとおりで、声優が実に良い仕事をしている。

 

印象に残っているのは学園で主人公が愛を探しに行くところ。各話冒頭で出てくる一枚絵、これはコンセプトアートと呼べば良いのかわからないけど、とにかくヒロインの雰囲気が一番伝わる絵になっていて、それが実際に本編で登場したのは愛だけだったと記憶している。あとはそれよりも前、周りが認識できなくて困り果てている主人公によりそうほたる、その手と手が重なりあう背中合わせの関係。すごく綺麗な場面なのに、この絵はなぜかCG鑑賞に収録されてなくて残念。ここでの一枚絵と、またふたりのやりとりからも感じられる通り、こういう強い信頼感のある関係性はとてもいいなと思う。この場面で語られる通り、たしかに愛はこじらせてて、言ってしまえば面倒なところもある。けれどそうした個性もまた人間の魅力になりうるのだな、というのは本作で得た知見のひとつだった。

 

 

朝比奈響子

印象に残ったというか、感想を書くのにもう1周してみて気付いたのは、ほたると鈴夏が湖で語る場面。主人公と鈴夏のあいだでせっかく話がまとまりかけていたところを、ほたるが彼女らしくなく蒸し返して話が長くなるんだけど、はじめはなんでほたるがこういう言動をしたのかがよくわからなかった、というよりこの場面の詳細を忘れていた。シナリオを最後まで追ってからもう一度この場面を読むと、おそらくほたるなりに思うところがあっての物言いで、それは鈴夏に対する割り切れない感情、同じような境遇にいるけれどもそこに在る感情が全く異なる彼女と響子の関係に対して、羨望とかそういうたぐいの気持ちがあったからなのだろうと思い至る。どんなに周りの幸せを願うほたるであっても、彼女自身が生きたい気持ちは確かにあって、それを考えるとこの場面がまた違って見えてくる切ない体験があった。

 

主人公が居候する喫茶店の娘であるこころ、主人公の言霊が効かないがゆえに特別な信頼関係にあるほたる、そして許嫁である愛に比べると、彼女と主人公の結びつきはどうしても弱くて、けれどストーリーとしては重要な伏線を張り続ける位置にいる。上で述べた場面もあとから振り返ってみればそうだと感じるし、主人公の親友役との和解、鈴夏が消える場面の光の演出、そしてほたる本筋でのもうひとつの選択肢を選んだ最後の場面で背中を押してくれるのも、別世界の友人である鈴夏であった。そういえば序盤であった「誠……“言うを成す”」という台詞だけは結局よくわからないままに終わった。

 

 

織部こころ

第一話であるこころ本筋ルートは体験版第2弾で丸々全部カバーされていて、その感想は以前の記事で書いた通り。物事を良い側から捉えるのはひとつの才能、そしてこれ以降の場面でも彼女のやさしさは際立っている。第一話の最後に出てくるオリジナルのほたるは、その後の本筋には関わることなく、次に出てくるのは第四話になる。もう少し存在を匂わせてくるかと思ったらそんなことはなくて、まあ彼女は分身のほたるがあってこそのヒロインなので、他ヒロインの本筋で絡んでくるのは野暮というものだろうか。こうして終わりから最初までを逆向きに振り返ってみると、どの本筋でも人の死が絡んでいるという観測結果を得る。

 

それはさておいて、ほたるの言う「狂言回し」の意味を取り違えてたというのが僕の中での衝撃だった。狂言的な物言いをする人、それはほたるがいつもしているような、もけけぴったらんこーなお嬢様のことを指すんだと思ってたんだけど、これは勘違いでウィキペディアの記事*3によれば「物語において、観客(あるいは読み手などの受け手)に物語の進行の理解を手助けするために登場する役割のこと」。そうこれはほたるが彼女自身をメタ的に評した言い方なのであった。またひとつ物知りになれた。

 

 

派生ルート

上でも書いた通り、ほたる本筋ルートを一通り終わらせるまでに他ヒロインとも仲良くなるから、その意味では本筋ルートを遊ぶだけで結構満足してしまった。ヒロインが一人に絞られないままにシナリオを続けていけるのは、本作の分岐方式が持つメリットだといえそう。一方で途中分岐という構造は、派生ルートがみな一律の人間関係から始まるわけではないことを意味していて、それは時としてストーリーを追うときの難しさにもなりそうに感じた。とくにこころの派生ルートは、まだ場が温まっていない――響子の憑き物が落ちておらず、愛の纏った険が取れていない――ところから分岐していて、ここは読み手としても、積み上がった人間関係を逆向きに崩すのに少しばかり負荷があった。それは最初からこころ派生に進んでいれば生じなかったものだけど、でもやっぱり一番面白いであろう本筋ルートは真っ先に攻略したいわけで。ということで本筋ルートの感想を書くのに力を使い果たしたので、派生ルートについては後日書けたら書く。

 

 

余 談

  • 「では、ちょっとオリオン座を見てみましょうか」犀川は言った。「今夜は、外も素晴らしい星空ですが……、まあ、寒いですからね。僕も寒いのは嫌いですし……。博士……、よろしければ、プラネタリウムでオリオン座を見せていただけますか?」(森博嗣笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBYE』)

 

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