ひながたり。

writing practice as practice flight

【ゲーム】アオイトリ 体験版第2弾 (Purple software)

はじめに

この記事は以下の人に向けて書いた;アマツツミを遊んで感動した人、そしてそれゆえにパープルの作品はお腹いっぱい、しばらくはちょっといいかなと思っている人。ようは3ヶ月前の自分*1である。

 

公式サイトにあるイメージボード、ヒロインだけでなく主人公にも用意されている印象的な一枚絵だけど、当初はこれだけ見てだいたい好きな感じの作風だとわかったから(特に黒髪の子の良さみ;-)、体験版は遊ばずに発売日まで待つのもありかなと考えていた。けどここにきてツイッターを何気なく覗いていたら、公式からの体験版第2弾公開とのつぶやき、そしてそこでは黒崎小夜、例の黒髪の子が気怠げにこちらを見ているという時宜を得てしまったので、少しだけ余裕もあることだし遊んでみようと相成った。

 

 

実際にやってみると良い意味で予想を裏切る展開、イメージボードだけでは想像もつかなかった彼女らにまみえるのは新鮮であり僥倖でもあり、それは同時に本作の積極的な購入を決める動機にもなりえるものだった。かつて7月の時点で誠実な制作サイドが薦めていたように、プレイしてみないとわからない点は色々とあるものだ。

 

以下ネタバレ注意です。君は続きを読んでもいいし、また続きを読むことなく、体験版第2弾をダウンロードして遊んでもいい。

 

http://www.purplesoftware.jp/products/aoitori/#trial

 

 

 

全体の様子

体験版第2弾で遊べるのは共通ルートまで。共通ルートは大きく2つのパートに別れていて、前半がヒロインのひとりであるメアリー・ハーカーとの邂逅を描いた「始まりの3日間」、そして後半がヒロインたちと学園生活を送るパート。舞台は以前にも触れた通りのミッション系の全寮制女子校、古い洋館や礼拝堂といったえらく荘厳な舞台でどうなるかと思っていたけど、みんな案外普通に学園生活している。季節は冬、かつヒロインたちの要請から夜の印象が強く、そうした周辺環境の下ではこれらの重厚な建築物は一層映える(CGは実際美しい)。主人公はその中にひとり紛れ込んだ神父という設定、他の男性キャラは幸いにしてか見当たらない。

 

作風でいえばタイトルロゴもそうだけど、すごく明朝体の似合う作品であって、メニューの項目など諸々すべて明朝体で統一されているので、メッセージウィンドウの表示フォントも明朝体に設定することをおすすめしたい。僕のPCではデフォルトでメイリオだったのでこれは軽すぎると判断して変更、いろいろと試してみて、最後はフォントが游明朝Lightで太文字をオン、袋文字設定は弱めで落ち着いた。

 

 

メアリー・ハーカーの様子

「始まりの3日間」で主人公と出会い、後半パートも含めた体験版の範囲内ではもっとも多く描かれているように観測される。その吸血鬼という性質から彼女の世界は夜を舞台に語られ、そこに由来する静謐さ、とりわけ冬の夜は本当に静かで澄んでいて、しかし室内では暖炉に火がくべられ、二人暖まりながらの親密なやりとりには心が和む。同じく吸血鬼の性質として魅了を持つことに言及されているものの、何かがずれているのか、彼女はどこか性的な対象ではない感覚も覚える。

 

「吸血鬼らしい吸血鬼っていうのはね――生きることに飽きていた、ってこと」生きることに倦んだ吸血鬼、しかし前半の終わりで主人公の血を飲み、陽の光を浴び、その後は皆との学園生活をとても楽しんでいく。どこか悟ったような色の無い彼女の生活が、彩りへと変わっていく過程が存分に感じられたのが良かった。作中では "善性" という言葉で表現されていただろうか、彼女の思考や物事の捉え方、とても良い子で自然な前向きさを持っているところもまた魅力的だった。そう前半のクライマックスで彼女が血を啜る場面、イメージボードにも描かれたその美しさと淫靡さの同居するさまは体験版全体を通しても屈指のインパクトであり、これを実現するためにシナリオが存在したのではないかと思わず錯覚してしまった。まあこれは個人的な・唯美主義的な単なる思いつきに過ぎなくて、ストーリー性の重視は制作サイドで以前から語られている通り。

 

当初の僕の見立てでは彼女がメインヒロインだと思っていて、かつ彼女の存在なくして物語は前へと進まないのだけれど、それでも彼女の物語は "外典*2" に過ぎず、海野あかりによる真のルートが待っているとのこと。

 

 

黒崎小夜の様子

メアリー・ハーカーに対するカウンターとして登場する主人公の双子の妹。導入の流れからしてはじめ悪魔の創作物かと思っていたら、そうではなくて都会で生活していた女の子が本当にやってきたらしい。しかしこの作品世界がそもそも非現実的であって、具体的な地名を出したところでやはり現実感には乏しかった。邂逅の場面はやはり夜の出来事で、その一枚絵からして彼女もまたリアリティに乏しく、神秘的に過ぎる。まあそれがいいのだけれど。棘のある尖った少女は本作の原画家ならではの魅力である。

 

イメージボードにある場面は初めて見たときから気になっていて、これが作中で現れたときには思わず画面アスペクト比16:9の恩恵を感じた。同時にここで描かれる緩やかで静かな空気、小夜が主人公の部屋を訪れてなんとなしに会話する場面は本当に好きで、お互いの存在を確かめるだけのコミュニケーション、結論を求めない会話の心地良さを是非指摘しておきたい。それらに加えて、煩さを免れた先にある幸せへの共感はもはや言うまでもなく。イメージボードではもうちょっと暗い感じに見えた彼女だけれど、思っていたよりもよく喋ってくれる。これはワインで酔っているせいかもしれない。

 

「わたしと律だけの世界だったら、よかったのにね」かくいう小夜の台詞にはどこか聞き覚えがあって、さらに律と小夜の関係性――兄妹がともにゲームバランスを壊す能力を持ち、その能力ゆえにお互いに依存し、あるいは他者を拒絶する――そしてSっ気の強い妹、という状況はある美少女ゲームを思い出させ、そのゲームのオープニングムービーを観直してみて予想は確信に変わった。何にせよ僕はその作品も良いものだと思っていて、それはこのブログにも書いてきたことでもあるし、そういった方向性は個人的には好ましいものではある。小夜のルートで語られるのは、あるいはその変奏であろうか?

 

 

海野あかりの様子

これはやばいな、と抗いがたい蠱惑的なものを感じたのがプールサイドでの会話の一枚絵、この場面で彼女はほとんど視線だけで会話していて、その伏し目がちな様子、抑制された言葉遣い、あと仄暗さ、のちに主人公が考察しているように彼女には脆くて危ういところがあり、そしてそれに不思議と惹かれている自分がおり。さきに言及した少女の尖りはもとより、彼女に顕れている脆さ・危うさもまた本作の原画家が描きうるものだという実感がある。

 

その蠱惑的で・扇情的なさまに最初の場面をもう一度見たい衝動に駆られ、タイトル画面の「はじめから」でリスタートしてしまった(ふりだしに戻る)。冒頭での彼女ははじめ横顔しか見せず、伏し目がちにこちらを見つめ、あるいはこちらを見ずに視線を虚空へと泳がせる。その瞳には暗いものが宿り、こちらが瞳の奥の深淵を覗きこめば、等しくその深淵から覗き返されて心がざわつく。開始直後の展開で思わずスルーしてしまっていたけど、冒頭の場面ですでにその片鱗は見えていたのだった。

 

その一方で打ち解けてからのおしとやかさは良いもので、後半でのメイド服姿で周囲に接する様子、また彼女が時々こなす文学作品の引用は、衒学的な僕をして愉しませてくれた。しかしイメージボードにある囚われの彼女、これまでのどちらともつかない雰囲気の様子は体験版では出てくることはなく、心に引っかかって残るものがある。

 

 

おわりに

何かの作品に触れたときにそれについて書きたくなる、こういうときの書き方には2通りあると考えていて、ひとつがこうして終えたあとにまだ残っている余韻、自分の感性によって掬い上げられたファーストインプレッションを信じて、それだけで書き上げるというやり方。もうひとつが何度か周回することで書ける材料を自分の中に蓄えていって、その後それらを取捨選択して試行錯誤で繋げていくやり方。誰にとってどちらが好ましいかはさておき、今回の記事は前者、1周終えた時点での勢いで書いているから、もし内容に間違いがあればご容赦ください。

 

しかしまあ1周だけして書こうとすると、自分の好きなキャラと場面しか覚えていないということがよくわかる。赤錆姉妹と悪魔の様子を記述するのは難しさがあったので割愛した。あと本作のキーポイントに祈りと命があるけど、こちらも上手くまとめられなかったので割愛。

 

黒髪の子の良さみに惹かれてほんの少し体験するつもりが、思わず吸血鬼の子に攫われ、また海の子には取り憑かれてしまう始末。発売予定は11月24日だそうです。