ひながたり。

writing practice as practice flight

【読書】つぶさにミルフィーユ(森博嗣)

海外に行くときに森博嗣の物理的書籍を空港で1冊買ってから出発する、というのを実践している。といってもまだ2度しか機会に恵まれていないのだけれど。

 

1度目は昨年秋、ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity? (講談社タイガ)という小説を買った。空港の書店で平積みの本をなんとなく眺めていたら目に入って、当時は出版されて間もないタイミングだったらしかった。Wシリーズという一連の作品群の最新刊で(本書付録の著作リストでいま確認した)、このシリーズはこれまで買ったことがなかったけど、ここで見かけたのも何かの縁だと思って買ってみた。途中まで読んだところで積ん読の気配が見えつつあるものの、おかげで最近の森博嗣の小説の様子が解った。

 

2度目は今回、独特の味わいのある表紙絵はイラストレーターの山浦のどか*1によるもの、書店で幾度か見かけたことを憶えている程度には印象に残っていた。去年の暮れに最寄りの本屋で見かけ、帰省途中に立ち寄った駅中の書店で再度見かけ、帰省中に地元の本屋で三たび見かけ、そして4度目を空港の書店で見かけてようやく購入に至る。タイトルはつぶやきではなくつぶさにが正しい(間違って憶えていた)。

 

内容、見開き2ページ分、文字数にして約1000文字で綴られたエッセィが100編収録されている。どこかの媒体に掲載されたものをまとめたのかと思っていたら、最後のページいわく文庫書下ろしだそうだった。クリームシリーズという一連の作品群の最新刊で(本書付録の著作リストで再度確認した)、このシリーズもやっぱり買ったことがなくて、買ったのは本書が初めてだった。それぞれのエッセィ、共感できるところもあれば、こういう考え方もあるのかと「目から鱗が落ちた」ケースもあり、むしろ後者の方の割合が高い(鱗のとても多い目だ)。自分がいかに常識的な考え方に染まっているかがよくわかる。

 

文庫帯では収録されているエッセィのうち4つのタイトル、

  • 「本気を出す」というが、本気以外のものを出せる方が凄い
  • ラノベの定義について書こう
  • 宇宙人は、ほぼ確実に十進法を採用していない
  • 救急車に乗るのは二回目だった

 

が紹介されているけれど、それらよりも僕にとって面白かったのは1番目のエッセィ「同じ本を読んでも、同じものを食べても、同じ人間にはならない。」だった。以下はこのエッセィからの引用。

本を読んで得られる最も重要なことは、「本が面白い」ということ、「読むことが楽しい」ということであって、本の内容などは二の次だし、それは個々に違い、個人によってさまざまなのだ。極言すれば、面白さを知ること以外はどうだって良い。

 

ということだから、僕も面白かったとだけ述べるに留めるのがここでの流儀だろうか。それでも僕は、せめて言葉で考えることの多い自分のためだけには、こうしてどこがどう面白かったのかを綴り続けることをしたい。しかしそういった気負いも、65番目のエッセィ「言葉を知らないから理解できない、と考えている人が多い。」を前にすると、不意に揺らいでくることを免れない。

 

81番目のエッセィのタイトル「四という数字が、身近に沢山ありすぎる。」を見たとき、はじめ忌み数の話が展開されるのかと想像した。昔は四や九をつとめて避けていたのが、最近ではそういう習慣も薄れて至るところに出てくる――そういう話題かと思いきや全然違っていて、極めてエンジニアリング的な読み物だった。こういう話題がさっと提供できるようになりたいという憧れがある。どうすればこんな風にできるようになるのだろうかと悩ましく、結局のところ自分の頭で考える癖をつける以外に近道はないのだと思う。常識に囚われず自分の頭で考える、そのサンプルは森博嗣の著書に沢山あるから参考にしよう。シリーズや出版の順番に囚われて読めない人(自分を含む)には、20番目のエッセィ「順番というものは、さほど重要ではない。」が助けになる。

 

最後にゲームの話題。ゲームについては、34番目のエッセィ「ゲームというのは、制約の中で成立するものであり、基本的に不自由だ。」で語られている。たしかに不自由ではあるが、しかしそこで広がる新しい世界もある。海に潜る・空を飛ぶ・もしくは宇宙に出るといったアクティビティは、現実世界では困難だけどVRならたやすい。あるいはマインクラフトはレゴにあった物理的制約を排して無限ともいえる広がりを得て、それは非現実の枠内ながらもレゴ同様に幼子たちの創造力を駆り立ててきた。もっと言ってしまえば、あわよくばヒロインになってライブするとか自撮りするとかもできよう。

 

www.jp.playstation.com

twitter.com

GRAVITY DAZE 2 (PS4) では主人公グラビティ・キトゥン(かわいい)になってセルフィーできるのだ…これを幸いと言わずになんというのか

 

最後のは半ば冗談ではあるが、こうした可能性を与えられるのが昨今のゲームである、ということは是非述べておきたい。今の世の中、まったくゲームに触れずに生きてきたというほうが珍しいだろう。誰しもが多かれ少なかれゲームに触れて成長するものだと思うし、そしてそこにおけるゲームの良さを信じたい。

 

最後に付録の著作リスト、2017年12月現在とおそらく最新情報ではあるものの、講談社の刊行物のみなので注意されたい。あの本が載ってない、と思ったら出版社違いだった。